
外国人労働者が収めた年金保険料は掛け捨て?
外国人労働者を雇用した経験が無い方はあまりピンと来ないかもしれませんが、多くの外国人労働者は「家族の為に働いている」という意識を強く持っています。その為に、彼ら彼女らが最も重視するのは(家族の為に使える)手取り額であって、その他の「年金保険」や「健康保険」などの社会保険の仕組みや福利厚生面には概ね無関心です。
給与明細書を見て、「何故、こんなにも色々と差し引かれているのか?」「就職前に聞いていた給与額と違う!」「自分は騙されているのでは?」などと考えてしまいがちです。このような意識で働いていたら、いづれ雇用主側とトラブルに発展するのは必至ですよね。
特に年金制度はいくら説明しても「えっ?65歳から支給される金を何故、俺が今払うの?」「そもそも俺の在留期間は5年間だから、65歳の時点で俺は日本にいねーし!」となって、「無意味な年金保険料を支払っている」という意識はなかなか拭い去れません。
御承知の通り、年金保険料は最低10年間分納付しなければ受給資格はありませんので、5年間で帰国する彼らが納付した保険料はいわゆる掛け捨てとなってしまうのでしょうか?
実はこれを救済する制度があって、それが今回のテーマである脱退一時金制度というわけです。
脱退一時金を受け取る為の要件は?
要件は全部で7つあって、全て満たさなければなりません。
①日本国籍を有していない
②公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でない
③国民年金保険(共済組合等を含む)の加入期間の合計が6月以上ある
④老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
⑤障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがない
⑥日本国内に住所を有していない
⑦最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
※③は国民年金保険を厚生年金保険に置き換えても成立する。
※④は「年金の受給資格があるのならば脱退一時金は不要でしょ」ってことです。
※⑦の()は「帰国してから2年以内に申請してね」ってことです。
脱退一時金として受け取れる額は?
厚生年金の脱退一時金は次の式で計算されます
※(1)平均標準報酬額×18.3(保険料率%)×1/2×※(2)支給額計算に用いる数
※(1)平均標準報酬額とは厚生年金を納めていた期間の給与と賞与の合計額を1カ月当たりの平均額に換算したものです。
※(2)支給額計算に用いる数とは概ね加入月数に近い数値となります。日本年金機構のHPに数値表が載っています。現行はMAX60です。

具体例で計算してみましょう
平均標準報酬額:280,000円で5年間(60カ月)働いた場合
280,000×0.183×1/2×60=1,537,200円
ここから所得税20.42%を差し引いた額1,223,304円が脱退一時金として受け取れます。
この例で5年間(60カ月)としたのには意味があり、※現行のルールではこれが上限と定められているのです。その為、例えば70カ月働いたとしても10カ月分はいわゆる掛け捨てとなります。
ここで冒頭の「無意味な年金保険料を支払っている」という意識が彼らの頭によぎります。何よりも手取り額を重視し、「どーせ65歳の時は日本にいねーし」と考える彼ら彼女らは60カ月と過ぎたタイミングで退職して帰国し、脱退一時金をGETする道を選ぶ外国人は決して少なくないのです。
雇用主側は年金保険加入期間が60カ月に近づいてきたら、早めに当該外国人の帰国意思などを確認しておくことをお勧めします。
(※現行の上限5年間を今後は8年間と改訂することになりそうです)
